

この記事でわかること
定性調査で分かることと、定量調査との違い
代表的な4つの手法と、それぞれの人数・時間の目安
自分の調査にどの手法が合うかを決める2つの問い
定性調査をやると決めたあと、次に決めること
定性調査とは、インタビューや観察を通じて、数字にできない意見・行動・気持ちを言葉で捉える調査です。新商品の企画や既存サービスの改善で、「なぜ選ばれないのか」「利用者はどこでつまずいているのか」といった定性的な事象を知りたいときに行われます。
定性調査の手法は、デプスインタビューやグループインタビューなど様々です。ところが、自分の調査にどの手法を選べばよいのかという肝心の基準は、ほとんどの資料に書かれていません。
結論だけ先にお伝えすると、手法選びの基準は「聞いてわかることか、見ないとわからないことか」「仮説を作る段階か、確かめる段階か」の2つです。この2つの問いに答えられれば、代表的な4つの手法のどれが自分の調査に合うかを、おおよそ絞り込めるでしょう。
本記事では、定性調査の基本と定量調査との違い、代表的な4つの手法と2つの問いによる選び分け、実施を決めたあとに詰める項目までを解説します。
定性調査とは、対象者の発言・行動・表情のような、数値にならない質的な情報を集めて解釈する調査を指します。英語の qualitative research の訳語で、「質的調査」と呼ばれることもある言葉です。アンケートなどで数値データを集める定量調査(quantitative research)と対で使われます。主に調査の成果物として残るのは、発言録や観察メモといった言葉を扱うデータです。
定性調査では、「なぜそうしたのか」という理由や背景が分かります。たとえばある商品を買った人に話を聞けば、店頭で何と比較し、何をきっかけに手に取り、最後は何が決め手になったのかという一連の流れを、本人の言葉でたどることが可能です。言葉だけでなく行動も対象になるため、操作画面のどこで手が止まったかという記録も、「なぜ」を考える手がかりになります。
一方で、「市場全体の何%がそう思っているのか」という広がりは分かりません。聞ける人数がかぎられるため、出てきた意見が市場でどれくらい多数派なのかは、定性調査だけでは判断できないのです。その広がりを確かめる役目は、定量調査が担います。
また、結果の解釈が分析する人の力量に左右されやすい点にも、注意が必要です。
両者の違いを一覧で整理すると、次のようになります。
定性調査 | 定量調査 | |
|---|---|---|
得られるもの | 発言・行動・表情など、言葉で表される質的な情報 | 割合・平均など、数値で表されるデータ |
人数の規模 | 少人数を深く | 多人数に広く |
向いている問い | なぜ買ったのか、どう使っているのか | 何%が買ったのか、どちらが多いのか |
結果の使い道 | 仮説づくり・アイデアの種の発見 | 仮説の検証・意思決定の裏づけ |
どちらが優れているかという話ではなく、答えられる問いが違うというのが両者の関係です。実務では、いま手元にある問いが「なぜ」で始まるなら定性調査、「どれくらい」で始まるなら定量調査を第一候補にすると、迷わずに判断できます。定性調査が少人数にとどまるのは、1人の対象者から得られる情報が多く、聞き取りにも分析にも時間がかかるためです。
なお、定量調査のアンケートにも自由記述欄があり、言葉のデータを集めること自体は可能ですが、書かれた内容をその場で聞き返して深掘りできない点で、インタビューとは役割が異なります。自由記述の形式で定性的な情報を回収し、回答を分析に活かしたい場合は、別記事「アンケート自由記述の分析はAIに任せられる?回答件数で選ぶ4つの方法と、生成AIで分析する手順」が参考になるはずです。
定性調査の手法は数多くありますが、事業会社の調査でまず検討するのは、デプスインタビュー・グループインタビュー・行動観察(エスノグラフィ)・訪問調査の4つに絞られます。いずれも実務で使われる場面の多い、まず押さえておくべき代表的な手法です。
それぞれの特徴と規模感を、人数・時間の目安とあわせて表にまとめました。
手法 | 何をするか | 人数・時間の目安 |
|---|---|---|
デプスインタビュー | 調査員と対象者が一対一で向き合い、購入の経緯や生活の事情を深く聞く。話が想定から外れても、その場で掘り下げられる。個人的な話題や、人前で話しにくいテーマにも向く | 1名あたり60〜90分 |
グループインタビュー | 複数の対象者に集まってもらい、司会の進行のもとで話し合ってもらう。他の参加者の発言が刺激になり、一人では出ない話題が広がる | 1グループ5〜6名・1回2時間 |
行動観察(エスノグラフィ) | 対象者が商品を使う場面や売り場での動きを、そばで観察する。「言っていること」と「やっていること」のずれや、本人が意識していない手順・癖を捉える | 対象者の生活場面に合わせるため、案件により幅がある |
訪問調査 | 対象者の自宅などを訪ね、生活環境ごと観察しながら話を聞く。実際に使っている物や置き場所まで確かめられ、観察とインタビューを一度に行える | 訪問先の都合に合わせるため、案件により幅がある |
なお、デプスインタビューとグループインタビューは、ビデオ会議で実施するオンライン形式も一般的です。
このほかにも、対象者に日々の記録をつけてもらう日記調査、会場に集まってもらう会場調査(CLT)、自宅で一定期間使ってもらうホームユーステスト(HUT)など、手法の名前は次々に出てきます。
ただし、最初の手法選びは、上の4つからどれが最適かを考えるようにしましょう。たとえば会場調査が行動観察とデプスインタビューを同時に実施するような調査であるように、これら4つの調査手法が全ての調査手法の基本の形になっているためです。
自分の調査に合う手法の決め手になるのは、手法の側ではなく、調べたいことの性質を問う次の2つの質問です。この2つに答えて手法の当たりをつけておくと、調査会社に相談する場合でも、設計や見積もりの話を具体的に進められます。
1つ目の問いは、知りたいことを対象者本人が言葉にできるかどうかです。買った理由や日ごろの不満のように、本人が自覚していることであれば、聞けば答えてもらえます。この場合は、デプスインタビューやグループインタビューといった「聞く」手法が候補です。
一方、調理中の手順の癖や売り場での視線の動きのように、本人が意識していないことは、聞いても正確な答えが返ってきません。本人も気づいていない以上、答えようがないからです。
こうした対象には、行動観察や訪問調査といった「見る」手法を選びます。スキンケア商品を例にすると、「その商品を選んだ理由」は本人が語れることで、「毎晩の手入れの順序や使う量」は本人も意識していない習慣のため、前者に向くのは聞く手法、後者に向くのは見る手法です。
2つ目の問いでは、調査の目的が仮説づくりなのか、仮説の確認なのかという段階を見極めます。「利用者は何に困っているのか」をこれから探す段階に合うのは、1人ひとりの事情を時間をかけて聞けるデプスインタビューです。想定していなかった話が出てきても、その場で方向を変えて掘り下げられるため、調査が事前の仮説の範囲だけで終わりません。
反対に、「こういう理由で選ばれているのではないか」という仮説がすでにあるなら、複数の反応を一度に集められるグループインタビューで、受け止め方が人によってどう違うかを確かめられます。同じ「聞く」手法でも、仮説を作るなら1人ずつ深く、確かめるなら複数の反応を並べて見るというように、段階によって役割が分かれるのです。
2つの問いに答えると、聞いてわかることを1人ずつ深く探るならデプスインタビュー、複数人で確かめるならグループインタビュー、見ないとわからないことなら行動観察や訪問調査、という並びで手法が決まります。
たとえば、「詰め替えが面倒だという不満が離脱の原因ではないか」を確かめたいならグループインタビュー、「そもそも浴室で何に手間取っているのか」から探したいなら訪問調査、という当てはめ方です。

問1で示した「聞いてもわからないことがある」という前提は、感覚論ではなく、研究でも確かめられています。とくに参考になるのが、行動の量や頻度を本人に尋ねる形式の限界を示した、次の研究です。
ステレンボッシュ大学やスタンフォード大学などの研究チームは、デジタルメディアの利用量の自己申告と、端末に残った実際の記録とを比べた研究を数多く集めました。これは、同じテーマの研究を集めて結果を統合し、全体の傾向を導き出すメタ分析と呼ばれる手法です。その結果、申告された量が実際の記録を正確に映していたことは、「ほとんどなかった」と報告されました。
調べられたのはデジタルメディアの利用時間ですが、自分の行動を自分で語ったときに、実際とどれだけ一致するのかという観点では、調査設計の参考にできます。
この結果が示しているのは、記憶に頼った自己申告は、量や頻度の把握に向かないという事実です。使った回数や時間を面と向かって尋ねられれば、対象者は誠実に思い出そうとしますが、それでも記録とのずれは生まれてしまいます。
聞くだけでは正確に取れない情報があるから、行動観察や訪問調査が大きな意味を持つのです。
定性か定量かは二者択一ではなく、実際のプロジェクトでは順番に組み合わせて使われます。たとえば新商品の開発なら、企画段階で定性、発売前の検証で定量、発売後の改善でまた定性という行き来が典型です。組み合わせの型は、定性と定量のどちらを先に行うかで2通りに分かれます。
1つ目は、先にデプスインタビューなどで少人数の話を深く聞き、「この不満が購入の壁になっているのではないか」という仮説を作る型です。
仮説が市場全体でどれくらい当てはまるかは、あとから行う定量調査で確かめます。新しい商品の企画のように、まだ手がかりが少ない段階から始めるプロジェクトに向いた進め方です。
商品コンセプトの評価まで進むなら、仮説をもとに作った案を対象者に見せて反応を確かめる流れもあります。これはコンセプトテストと呼ばれる調査です。進め方は別記事「コンセプトテストとは?正しい進め方と評価項目、購入意向スコアの読み方」で解説しています。
2つ目は、先にアンケートやアクセス解析で「特定の層だけ購入率が落ちている」といった数字の動きをつかみ、その理由をあとからインタビューで探る型です。数字は変化が起きたことを教えてくれますが、なぜ起きたのかまでは教えてくれません。
既存の商品やサービスの改善のように、すでにデータが手元にあるプロジェクトで使いやすい組み合わせです。
手法まで決まったら、実施に向けて条件を詰める段階に入ります。次に決めるのは、「誰に聞くか」「何人に聞くか」「いくらかかるか」「自分でやるか、頼むか」の4つです。それぞれに個別の解説記事を用意しているので、詳しく知りたい項目から読み進めてください。
誰に聞くか:性別・年齢・利用経験といった対象者の条件を決め、条件に合う人を集めます。条件の決め方と集め方は、別記事「スクリーニング調査とは?スクリーナーの設問を作る手順と、該当者を正確に抽出する聞き方」で解説しています。
何人に聞くか:実証研究を集めて分析した論文では、対象者が均質で、目的を狭く絞ったインタビューは9〜17人で話が出そろった、という範囲が報告されています。自分の調査がこの条件に当てはまるか、当てはまらないときに何人必要かは、別記事「定性調査のサンプル数は何人が正解?|インタビュー人数の目的別の目安を解説」で解説しています。
いくらかかるか:手法と人数が決まると、かかる費用のおおよそが見えてきます。別記事『定性調査の費用はいくら?手法別の相場と「人数を半分にしても半額にならない」理由』で項目ごとに整理しています。
自分でやるか、頼むか:設計・対象者集め・インタビュー本番・分析のどこまでを自社で行い、どこから外部に出すかを決めます。調査会社に頼む場合の進め方と選び方は、別記事『インタビュー調査の代行はどこまで頼める?外注できる工程・費用相場と、調査会社を選ぶ「5つの軸」』にまとめています。

Spark Research は、アサヒビールや日本たばこ産業(JT) などの大手メーカーも利用する、AIインタビューサービスです。
Spark Research なら、AIがインタビュアーとなるため、定量調査のように数百人規模対象者での調査が実施でき、かつAIが回答の内容に応じて追加の質問をその場で重ねるため、定性調査の深さも実現できます。
また、多くの関係者をアサインすることなく、AIが主導で業務を遂行するため、実際に大手の調査会社に依頼した場合と比較して、70%以上の費用削減につながった事例も生まれています。
調査の設計から分析までご一緒できますので、下記よりお気軽にお問い合わせください。
定性調査の手法選びは、名前を覚えることではなく、「聞いてわかることか、見ないとわからないことか」「仮説を作る段階か、確かめる段階か」という2つの問いに答えることから始まります。
そして、この問いに答えるには、その前に「この調査で何を知りたいのか」が言葉になっていなければなりません。まずは知りたいことを1文に書き出し、2つの問いに当てはめて手法の当たりをつけるところから始めてみてください。
決まった順番はなく、手元に何があるかで決まります。まだ仮説がないなら、定性調査を先に行って仮説を作る順番が自然です。すでにアンケートやアクセス解析の数字があるなら、その数字が動いた理由を定性調査で探ると効果的に進められます。
参考になるのは、実証研究を集めて分析した論文です。その分析では、対象者が均質で、目的を狭く絞ったインタビューは9〜17人で話が出そろった、と報告されています。この条件に当てはまるかどうかで必要な人数は変わるため、先に「何を知りたいか」を決めてから人数を検討してください。
対象者の生の言葉は、数字だけでは伝わらない利用の実態を関係者に実感してもらう材料になります。ただし、少人数の結果だけでは「その意見は多数派なのか」という反論に答えられないため、重要な意思決定の場面では定量調査の数字と組み合わせて示すのが安全です。
できます。デプスインタビューやグループインタビューはビデオ会議でも実施でき、移動が不要になるぶん、遠方の対象者にも参加してもらいやすいのが利点です。一方、売り場での行動観察のように、その場にいることが前提の手法は対面が基本になります。
参考文献
Parry, D. A., Davidson, B. I., Sewall, C. J. R., Fisher, J. T., Mieczkowski, H., & Quintana, D. S. (2021). A systematic review and meta-analysis of discrepancies between logged and self-reported digital media use. Nature Human Behaviour, 5(11), 1535–1547.
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