

この記事でわかること
N1分析が何をする手法か、ペルソナ分析と何が違うのか
対象の一人をどう選ぶか、選び方を外すと何が起きるか
何を聞くか(買った理由を直接聞くことの限界と、代わりに聞くこと)
N1分析で何人に聞くか、結果をどう次につなぐか
N1分析は、実在する一人の顧客を深く理解し、そこから施策のアイデアを見つけるマーケティングの分析手法です。西口一希氏の著書をきっかけに広く知られるようになり、自社でも試してみようと考えるマーケターの方も多いのではないでしょうか。
ところが、いざ始めようとすると、多くの方が最初の一人を決める段階で手が止まってしまいます。たった一人の話に施策を賭けてよいのか、という不安もつきものです。
手順を調べれば「一人を深く理解する」ことまでは分かるものの、その一人をどう選ぶのか、選び方を外したらどうなるのかまで書かれた解説は、ほとんど見当たりません。
N1分析がうまくいくかどうかを分けるのは、深く聞く技術よりも「誰を選ぶか」と「何を聞くか」の2点です。
本記事では、N1分析の基本とペルソナ分析との違いから、対象者の選び方、質問例、何人に聞けばよいかの目安まで、順を追って解説します。
N1分析の「N1」は、調査の対象者数が1人であることを指す言葉です。新商品のコンセプトづくりや既存商品の立て直しなど、施策のアイデアが欲しい場面で広く使われており、まずは何をする手法なのか、よく似たペルソナ分析との違いから整理します。
アンケートで数百人の回答を集めたとき、手元に残るのは平均値や割合です。平均は全体の傾向をつかむには便利ですが、そこに「この人がこういう理由で買った」という一人ひとりの流れは残りません。
たとえば、同じ商品を「時短になるから」買う人と「仕上がりがよいから」買う人が混ざっていると、平均の顧客像には「時短も仕上がりも気にする人」という実在しない人物が現れます。この像をいくら眺めても、次の施策につながる具体的な場面は浮かびにくいでしょう。
N1分析が見るのは、平均像ではなく、名前と生活のある一人の顧客に実際に起きた事実です。その一人がいつ商品を知り、何と比べ、どんな場面で使い、なぜ使い続けているのかといった具体的な事実を、その人の生活の中で順につながった一連の流れとして聞き取ります。施策の起点としては、実在しない平均像よりも、実在する一人に起きた事実のほうが具体的な打ち手につながりやすい、というのがこの手法の考え方です。
N1分析と混同されやすいのがペルソナ分析ですが、両者には人物像を「作る」か「作らない」かという違いがあります。ペルソナ分析が複数の顧客情報を束ねて代表的な人物像を作るのに対し、N1分析は実在する一人を、作らずにそのまま深く見る手法です。違いを一覧で整理します。
N1分析 | ペルソナ分析 | |
|---|---|---|
対象 | 実在する一人の顧客 | 複数の情報から作った架空の人物像 |
作り方 | 一人を選び、行動と場面を深く聞く | データや調査結果を束ねて代表像を描く |
得られるもの | 一人の「なぜ買ったか」の流れ | 全体像の共有に使える人物設定 |
使いどころ | 施策のアイデアを見つけたいとき | チームで顧客イメージを揃えたいとき |
表の1行目のとおり、ペルソナは作った人物像なので、作り手の思い込みが混ざる余地のあるものです。N1分析は、実在の一人に固定することでその余地をなくします。ただし、どちらかが優れているという話ではありません。
実務では、N1分析で得た一人の具体的な理解をもとに、ペルソナを作り直すという順序で組み合わせることもよくあります。一人から仮説を見つけるのがN1分析、見つけた顧客理解をチームで共有できる形にまとめたものがペルソナ、という役割の違いで押さえておくと使い分けに迷いません。
N1分析は、マーケターの西口一希氏が著書で提唱した分析手法です。西口氏は、顧客全体を平均でとらえるのではなく、たった一人の顧客を深く理解するところから商品や施策のアイデアを見つける考え方を、一連の著書で示してきました。
この記事で全体の流れをつかんだあとに原典の著書へ進むと、提唱者自身の言葉で考え方を確かめられます。なお、「N1分析」という名称は、M-Force株式会社の登録商標です。
前の章で見た「平均ではなく一人を見る」という発想を裏返すと、N1分析のメリットは次の3つに整理できます。
平均にすると消えてしまう、「この人がなぜ買ったのか」の流れが残る
数字では出てこない具体的な場面が手に入り、施策の案に直結する
少人数・短期間で始められる
「なぜ買ったのか」の流れが残るというのは、「この人が、この順番で、こう動いて買った」という一連の出来事を、そのまま持ち帰れるということです。アンケートの集計は「何が起きているか」を割合で教えてくれますが、「なぜ起きたのか」という流れは、選択肢ごとの数字にばらされてしまいます。
また、語りの中に出てくる具体的な場面は、施策を考えるための直接の材料です。たとえば「朝の支度の途中で、片手がふさがったまま使っていた」という場面が一つ語られるだけでも、容器の改良や訴求文の候補は具体的に絞り込めるでしょう。「こういう場面で困っている人に、こう届ける」という形まで一気に近づけるのは、理由の言葉だけでなく、場面がまるごと手に入るからです。
さらに、対象が一人であれば、大がかりな調査を組まずに着手できる点も見逃せません。調査会社に依頼する段取りを待たずに一人目の話を聞き、その週のうちに施策の案を並べる、という速さで進めることができるのです。
ここからは、冒頭で挙げた2点のうち、1つ目の「誰を選ぶか」の話です。
対象の一人は、思いつきや頼みやすさで選ばないことが大原則になります。先に顧客をいくつかの層に分け、今回の施策で狙う層を決めてから、その層に当てはまる一人を探す、という順序です。
たとえば、発売から時間のたった商品の売上を立て直したい場合、「かつて買っていたが離れた人」に聞くのと、「今もよく買ってくれる人」に聞くのとでは、出てくるアイデアはまったく別のものになるでしょう。
層の分け方は、最初は「買っている・買っていない」と「知っている・知らない」を掛け合わせる程度の粗さで構いません。西口氏の方法論には、この掛け合わせをさらに細かくして顧客全体を分けていく考え方もありますが、最初の一人を選ぶ目的であれば、この粗さから始められます。
層が決まったら、その中の一人は、極端に熱心なファンよりも「その層の典型」と思える人を選びます。話が個性的すぎる一人だと、あとで2人目、3人目の話と見比べたときに、重なった内容が層に共通のものなのか本人の個性なのかを見分けにくいためです。「よく買ってくれる人」「離れてしまった人」「知っているのに買わない人」のうち、どの層の話を聞きたいのかを先に言葉にしておくことが、このあとの工程すべての土台になります。
選び方をこれほど強調するのは、外れても気づきにくいという、この手法ならではの事情があるためです。狙う層から外れた一人に話を聞いても、その人は自分の実感を誠実に語ってくれるため、聞き取りの場では何の違和感も出ません。アンケートであれば、対象のずれが集計に表れる余地があります。しかし、一人だけを見るN1分析には、そのずれに気づくための比較相手がいません。
だからこそ、「なぜこの人を選んだのか」を、選ぶ段階で説明できるようにしておく必要があります。「この層を狙う施策だから、この層のこの人に聞いた」と一言で言える状態が目安です。

対象の一人が決まったら、次は「何を聞くか」を決めます。多くの解説は「なぜ買ったのですか」と理由を直接たずねる前提で書かれていますが、この聞き方で、常に本当の理由が返ってくるとは限りません。
一人の語りを施策の根拠にするN1分析だからこそ、その限界を知ったうえで質問を組む価値があります。
ルンド大学などの研究チームは、スウェーデンのスーパーマーケットに試食コーナーを設け、買い物客180名にジャム2種と紅茶2種を試してもらい、ジャム・紅茶それぞれで好きなほうを選んでもらいました。そのうえで「選んだほうをもう一度試して、選んだ理由を説明してください」と頼むのですが、このとき容器の中身はこっそりすり替えられており、参加者が手にしたのは選ばなかったほうでした。
すると、すり替えた場面のおよそ3回に2回は、気づかれないまま「これを選んだ理由」がよどみなく語られた、という結果になりました。
すべての人が気づかなかったわけではなく、同じ実験の中で、一定数の参加者はすり替えに気づいています。また、味や香りの差が大きい組み合わせほど、すり替えには気づかれやすくなっていました。
本人はうそをついているわけではなく、たずねられれば、その場でもっともらしい理由を組み立てられてしまうのです。「何が起きたか」は語れても、「なぜそうしたか」という心の動きまでは、本人も正確に説明できていない場合があると考えられます。
では、どう聞けばよいのでしょうか。答えは、理由を直接たずねるのではなく、購入の前後に実際に起きたことを、場面と行動で順にたどることです。「なぜ選んだのか」への答えはその場で組み立てられてしまいますが、「その日、店で何をしたか」という事実の記憶は、本人が語れる情報として残っています。聞き方の言い換えを、質問例として一覧にしました。
直接たずねる聞き方 | 場面と行動をたどる聞き方 | この聞き方で取れるもの |
|---|---|---|
なぜこれを選んだのですか | 買った日のことを、店に入ったところから順に教えてください | 選ぶ前後に実際に起きたこと |
この商品のどこが好きですか | 最近この商品を使った場面を、始めから終わりまで教えてください | 生活の中での実際の使われ方 |
また買いたいと思いますか | 前回使い切ったとき、次にどうしたかを教えてください | 行動に表れた継続の意向 |
何が決め手でしたか | 買う直前に、ほかにどの商品を手に取ったか教えてください | 比較していた選択肢と迷いの中身 |
誰かに勧めたいと思いますか | 最近この商品の話を誰かにしたことがあれば、そのときのやりとりを教えてください | 実際に起きた口コミの場面 |
たどるときのコツは、ふだんの一般論ではなく、日付のある直近の一回に絞って聞くことです。
「ふだんはどう選んでいますか」ではなく「この前買ったときはどうでしたか」と聞くと、その場で組み立てた説明が入り込む余地が小さくなります。話が途中で飛んだときも、「その前には何をしていましたか」と時間をさかのぼれば、事実の側に戻れるでしょう。
上記の表の「場面と行動をたどる聞き方」の列のように事実を集め、語られた場面をもとに、なぜそうしたのかをこちら側で考える、というのがN1分析での聞き方の基本になります。
N1分析は「一人を深く」という言葉で語られますが、一人に聞いて終わりにする手法ではありません。一人の語りから出てきた仮説が、その人だけの事情なのか、狙った層に共通するものなのかは、2人目、3人目と、同じ層の別の人に同じことを聞いて初めて分かります。
1人目と同じ質問を使い、同じように場面と行動をたどって語ってもらい、同じ場面が現れるかどうかを見ます。2人目にも同じ場面が現れれば、その仮説が選んだ層に共通している見込みは高まったと考えてよさそうです。逆にまったく違う話が出たら、1人目から得た仮説を施策にする前に立ち止まる合図になります。
このとき「同じ層で」という条件は外せません。層の違う2人目だと、話が食い違っても、層が違うせいなのか仮説が外れていたのかを切り分けられないからです。実務では、聞くたびに「新しく出てきた場面」と「前の人と重なった場面」をメモの段階で書き分けておくようにしましょう。
では、何人まで重ねればよいのでしょうか。定性インタビューについて複数の実証研究をまとめた分析では、お互いによく似た背景の対象者に、聞きたいことを絞って調べた場合に、9〜17人の範囲で新しい発見が出尽くしたという結果が報告されています。
この9〜17人は、1つの調査の中で9人目から17人目の間に出尽くす、という意味ではありません。研究ごとに出尽くした人数は異なり、複数の研究を並べたときの幅がこの範囲だった、という読み方になります。「新しい人に聞いても、すでに聞いた話と重なる内容ばかりになる」という状態が、積み重ねの一つの区切りです。
ただし、この人数は条件つきの目安にすぎません。対象の層が広い場合や、聞きたいことが絞れていない場合には、必要な人数はこの範囲より増えます。裏を返せば、「狙う層を1つに絞り、その層の人に聞きたいことを絞って聞く」というN1分析の進め方そのものが、この条件を満たすやり方です。
最初から人数を決めて集めきる必要はなく、2人目、3人目と重ねながら、新しい場面が出なくなったところで区切る進め方で構いません。人数の考え方の詳細は、別記事「定性調査のサンプル数は何人が正解?|インタビュー人数の目的別の目安を解説」で解説しています。

聞き取りのあとにやることは、語られた場面を施策の案に変換する作業です。語りの中から「困っていた場面」「決め手になった場面」を抜き出し、それぞれについて「自社は何を変えられるか」を考えていきます。
たとえば「売り場で成分表示が読み取れず、いつもの商品に戻した」という場面が語られたなら、打ち手の候補は表示の改善や店頭の案内物へと自然に絞られていくはずです。一つの場面から出す案は一つに絞らず、いくつか並べてから選ぶと、次の検証で比べられます。
このとき、案の根拠になった発言を、語られた場面とセットで残しておくと、あとで社内に説明するときにも、次の調査で検証するときにも困りません。
一人から出た案は、あくまで仮説です。その場面で困っている人が市場にどれだけいるのかは、N1分析だけでは分かりません。
そのため、語られた場面を「あなたにも、似たような経験がありますか」という形の設問に直し、定量調査として当てはまる人の割合を測るのが分かりやすい形です。N1分析で得た仮説をアンケートの設問に落とし、当てはまる人がどれだけいるかを定量調査で確かめる、という順番でつなぎます。
先に定量調査で全体の傾向をつかみ、あとからN1分析で「なぜ買ったのか」の流れを深めるという逆の順番も、実務ではよくある形です。
ここまでの内容と裏表になりますが、N1分析のデメリットは次の3つに集約されます。
一人に依存するため、選び方を外すと後工程がすべて外れる
そのままでは市場全体での割合が分からない
聞き手の力量によって、引き出せる情報量が変わる
1つ目の依存への対処は、選び方の工程を踏むことと、2人目以降にも聞いて確かめることの2つです。
2つ目の割合は、前の章で見たとおり、定量調査につなぐことで補えます。
3つ目は聞き手の問題です。例に挙げたような「なぜ」を重ねる聞き方に流れると、その場で組み立てられた説明ばかりが集まってしまいます。とくに社内のメンバーが聞き手になる場合は、商品への思い入れから、期待する答えに誘導する聞き方になりやすいことにも注意が必要です。
質問をあらかじめ場面と行動をたどる形で用意しておけば、力量や立場による差はある程度小さくできるでしょう。
実際に始める前に、次の5項目を確かめてください。
狙う層を先に決めてから、一人を選んだか
その人を選んだ理由を、選んだ段階で他の人に説明できるか
質問が「なぜ」ではなく、場面と行動をたどる形になっているか
同じ層の2人目以降にも聞く計画があるか(日程と人数の見込みまで)
出てきた案をどう検証するかを決めているか(誰に、どの調査で確かめるか)
途中で答えに詰まった項目があれば、対応する章に戻って埋めてから始めると、外したまま進む危うさを減らせます。
Spark Research は、アサヒビールや日本たばこ産業(JT) などの大手メーカーも利用する、AIインタビューサービスです。
本記事で見てきたとおり、N1分析のデメリットはN=1にインサイトが偏ってしまうことにあります。しかし、日程調整や聞き手の確保にも手間がかかるため、複数人に対して実施していくには大きな工数がかかります。
Spark Research なら、AIがインタビューを行うため、数十名から数百名の対象者に一斉にインタビューを実施できます。一人の語りで見つけた仮説を、同じ層の複数人に同じように聞いて確かめる、という本記事の進め方を、日程の制約なしに実現可能です。
N1分析を含めた調査の設計から分析までご一緒できますので、下記よりお気軽にお問い合わせください。
N1分析は、平均では消えてしまう一人の顧客の事実から、施策のアイデアを見つけられる手法です。
一人に賭ける不安は、「誰を選ぶか」を先に決め、「何を聞くか」を場面と行動に寄せることで減らせます。まずは狙う層を1つ決めて、その層の一人に話を聞くところから始めてみてください。
デプスインタビューは、1対1で対象者に深く話を聞く「調査手法」の名前です。一方のN1分析は、誰に聞くかの選定から、聞いた内容を施策のアイデアへ変えるところまでを含む枠組みを指します。実務では、N1分析の聞き取りの手段としてデプスインタビューを使う、という関係です。
目的によって変わります。よく買ってくれる人に聞けば選ばれ続ける理由が、離れてしまった人に聞けば離脱のきっかけが見つかる、というように、層ごとに取れるものが違うためです。優良顧客と決めてかからず、今回の施策で動かしたい層を先に決めてから、一人を選んでください。
一人の語りだけでは、「その話は例外ではないか」という反論に答えられません。同じ層の複数人に同じことを聞いて共通の場面が現れることを確かめるか、定量調査で割合を添えると、説得の材料として通りやすくなります。語られた場面を発言とセットで残しておくことも、納得を得るうえで効果的です。
BtoBでも使えます。買い手が組織であっても、導入を言い出した人、選定した人、日々使っている人といった実在の個人がいるため、層を決めて一人に聞く進め方はそのまま成り立つからです。ただしBtoCより対象者にたどり着きにくいので、狙う層の相手に会えるかどうかだけは、着手前の確認が必要になります。
参考文献
Hall, L., Johansson, P., Tärning, B., Sikström, S., & Deutgen, T. (2010). Magic at the marketplace: Choice blindness for the taste of jam and the smell of tea. Cognition, 117(1), 54–61.
AIインタビューのこと、まるごとご相談ください。
リサーチ設計から、組織への活用の定着まで。AIインタビューに関するお悩みは、スパークリサーチにお任せください。
AIインタビューについて相談する

原則1営業日以内に、担当者よりサービス概要資料をご送付させていただきます。
© 2026 Spark Research, Inc. All rights reserved.