

この記事でわかること
定性調査と定量調査で、サンプル数の決め方がどう違うか
何人聞けば話が出そろうかを実際に測った研究のまとめが示す、インタビューとグループインタビューの人数の範囲と、その数字につく条件
インタビューを重ねても新しい話が出なくなる「飽和」の見極め方と、調査に着手する前に人数を決めるための考え方
セグメントを比較したいとき、必要な人数がどう動くか
定性調査の企画書を作るとき、なかなか決まらないのが対象者の人数です。定性調査のサンプル数には定量調査のような計算式がなく、調べても「5〜10人」「多くて30人」と幅のある目安が並ぶだけで、その数字の根拠まで書かれている資料はほとんどありません。
結論を先にお伝えすると、定性調査のサンプル数は「何人で足りるか」という一律の数字ではなく、対象者がどれだけ均質かや、目的がどれだけ絞り込まれているかによって決まるものです。
本記事では、実際に飽和を測った研究を集めた実証レビューが示す人数の範囲とその数字につく条件、着手前に人数を決めるための考え方、そしてセグメントを比較したいときに人数がどう動くかを解説します。
定量調査では、母集団に対してどれくらいの精度で結果を語りたいかをもとに、必要なサンプル数を統計的に計算するのが基本です。回答の割合を「誤差±〜%」の形で示すために何人必要か、という計算が成り立ちます。
一方、定性調査のインタビューは、回答から母集団全体の割合を推定するための手法ではありません。少ない人数に深く聞いて、行動の背景にある理由や文脈を明らかにすることが目的です。
そのため定性調査では、「何人なら統計的に十分か」ではなく「聞きたいことが出そろうか」でサンプル数を考えます。10人中3人が同じ不満を口にしても、「市場の3割が不満を持つ」とは言えず、読み取れるのは、その不満がどんな文脈から生まれるかという構造のほうです。
この前提を押さえないまま定量調査の感覚で人数を眺めると、「母数が10人では何も言えないのではないか」という不安で、判断の足場を失ってしまいます。
では実際のところ、何人に聞けば意見は出そろうのでしょうか。この問いを実測データで検証した研究を網羅的に集めて分析した、2022年のレビューがあります。
このレビューを発表したのは、エモリー大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームです。4つの学術データベースを対象に文献の検索を行い、飽和(意見が出揃うこと)とサンプル数の関係を検証した23本の論文を特定しています。
その結果、実際のデータで飽和を測った研究は、インタビューなら9〜17人、グループインタビューなら4〜8組という狭い範囲で飽和に達していました。研究のテーマも飽和の測り方もさまざまだったにもかかわらず、よく使われる手法については比較的一貫したサンプル数に収束していた、というのが著者らの結論です。
ただし、9〜17人という数字だけをそのまま持ち帰るわけにはいきません。狭い範囲で飽和に達していたのは、比較的均質な対象者を、狭く定義された目的で調べた研究だったためです。
レビューの著者ら自身も、この結果は「均質な対象者を持つ研究など、ある種類の研究に当てはまる」ものだと限定を明示しました。「実証研究によれば9〜17人でよい」とだけ認識すると、この肝心の条件が抜け落ちてしまいます。
たとえば、20代から60代までの幅広い層に「暮らしの困りごと」を広く聞くような調査は、対象者が均質とも目的が狭いとも言えないため、この結果を当てはめることはできません。
レビューのなかには、飽和までにより多くの人数を必要とした研究も報告されています。対象が複数の国にまたがる研究がその例です。対象が広がるほど、必要な人数は増えるという結論で、9〜17人という範囲を外れました。
さらにもうひとつ、添えておくべき断りがあります。本記事で紹介する論文は、次の節で取り上げる Malterud 氏らのものも含めて、どちらも保健・医療分野の学術研究を中心とした文脈で書かれており、日本の企業が行うマーケティングリサーチをそのまま扱ったものではありません。9〜17人という範囲は、絶対の基準ではなく、条件つきの参照値として扱うのが正しい使い方でしょう。
ここまで何度か出てきた「飽和」は、定性調査のサンプル数を語るときに必ず登場する概念です。ところがこの概念には、実務のうえで扱いにくい性質があります。
飽和とは、インタビューを重ねても新しい話が出てこなくなった状態を指す言葉です。話が出そろったかどうかは聞き終えてみないと分からないため、飽和は定義上、調査が終わったあとにしか判定できません。
一般的な実務の解説では「3回連続で新しい情報が出なければ終了」といった見極めの目安も紹介されていますが、これも調査を進めながらの判定であるという点は同じです。
一方で、リクルートの発注や見積もりでは、調査を始める前に人数を確定させる必要があります。「何人やれば飽和しますか」と聞きたくなるものの、それは調査を終えるまで誰にも答えられない問いです。つまり飽和は、調査の「終え方」の基準にはなっても、着手前に人数を「決める」基準にはそのまま使えません。
では、飽和という考え方に、もう出番はないのでしょうか。そうではありません。着手前の人数決めには使えないだけで、インタビューが実際に始まってからの「終え方」の判断でなら、飽和は実務の基準として働きます。
その見極めに使われているのが、先ほども触れた「3回連続」の考え方です。国内の複数の調査会社が、3回連続のインタビューで新しい話が出なければ、飽和に達したとみなすという運用の基準を、共通して挙げています。
新しい話が出ない回が1回あっただけで打ち切るのではなく、3回続けて確かめてから判断する、という数え方です。
結論として、定性調査のサンプル数との付き合い方は、着手前は実証研究が示す9〜17人という条件つきの範囲で人数の当たりをつけ、インタビューが始まったら「3回連続」で飽和を見極める、という二段構えになります。飽和は、人数を「決める」基準としては使えなくても、調査を「終える」タイミングを判断する基準として活かせるわけです。
実務において「まず出発点になる目安」を作るための方法を下記にて解説します。
国内複数の調査会社の解説で共通して使われているのは、次の区分です。
探索型(仮説をつくるための調査):10〜15人
概念生成型(新しい概念を生み出すための調査):20人以上
検証型(仮説を確かめるための調査):8〜12人
ただし、これらは各社の実務経験にもとづく相場で、ここまで見てきたような実証研究の裏づけが示されているわけではありません。実際、同じデプスインタビューの目安でも、会社によって「5〜15人」「8〜15人」「10〜20人」と幅があります。相場は出発点として使い、最終的な人数は対象者の均質性と目的の絞り込みに照らして決めるという順番が安全です。
国内の調査会社の解説では、グループインタビューは1グループ4〜6人を2〜4組行い、合計8〜20人前後とする案内が多く見られます。一方、先ほどの実証レビューが報告した4〜8組は、実証研究の実測にもとづく範囲です。
2〜4組と4〜8組で数字がずれているのは、調査会社の相場と学術研究の実測値という出どころの違いによるもので、同じひとつの結論として矛盾しているわけではありません。どちらの数字で考えるにしても、グループインタビューの設計では、合計の人数ではなく「何組行うか」が単位になる点は、1対1のインタビューとの大きな違いです。
「20代と40代で比べたい」「利用者と非利用者で比べたい」と、セグメントを分けて比較したくなった瞬間に、ここまでの目安の読み方は変わってきます。
思い出したいのは、9〜17人という範囲についていた「比較的均質な対象者」という条件です。この条件をセグメント比較に当てはめて読み直すと、あの数字は「均質な集団ひとつ」あたりの人数ということになります。比べたいセグメントが3つあるなら、その3つが、それぞれひとつの均質な集団にあたるためです。
一方、多くの調査会社の解説では「セグメント数×各3〜8人」という割り付けの式がよく使われています。この式で1つのセグメントに割り当てられている各3〜8人は、実証研究が「均質な集団ひとつ」に示した9〜17人をかなり下回る水準です。
どちらが正しいと言い切れる材料はありません。各3〜8人は実務の経験則、9〜17人は保健・医療分野中心の学術研究の実測値で、前提となる文脈が違うためです。それでも、セグメントあたり3人のような下限で組んだ計画が、実証研究の示す9〜17人という範囲を大きく下回っていることは、知っておいて損はありません。

セグメントを細かく切るほど、1つの区分に割ける人数は少なくなります。仮に性別2区分×年代3区分で6セグメントを立て、実務の相場どおり各5人を割り付けると、それだけで合計30人です。予算の都合で総人数を20人に抑えれば、1セグメントあたり3〜4人になります。
このとき取れる道は、実質的に「比較の軸を減らして1区分あたりの人数を確保する」か「軸を維持したまま総人数を積み増す」かの二択です。
「その軸で差が見えたとき、次の打ち手が変わるか」を物差しとしましょう。差が見えても打ち手が変わらない軸は割り付けから外し、属性情報として記録するにとどめる、という割り切りも必要になります。
Spark Research は、アサヒビールや日本たばこ産業(JT) などの大手メーカーも利用する、AIインタビューサービスです。
ここまで見てきた人数の目安は、どれも人が1人ずつ会いに行く前提のものでした。1件ごとの日程調整・実査・文字起こしに人手と費用がかかるため、対象者を増やしたくても、予算や期間の都合で現実的には20名程度が上限となり、「セグメントを比較したいのに人数が足りない」という悩みが生まれがちです。
Spark Research なら、AIがインタビュアーを務めるため、この上限の前提そのものが変わります。数十名から数百名の対象者に、同じ品質のインタビューを一斉に実施できるため、9〜17人という範囲に収める工夫ではなく、比較したいセグメントごとに十分な人数を確保する設計が、現実的な選択肢になるのです。
サンプル数の設計から分析までご一緒できますので、下記よりお気軽にお問い合わせください。
定性調査のサンプル数に、どんな調査にも当てはまる正解の数字はありません。その代わり、対象者の均質性と目的の絞り込みという条件を添えれば、実証研究に裏づけられた範囲を参照値にできます。
企画書の人数を考える際は「対象者はどれだけ均質か」「目的はどこまで絞れているか」「比較したいセグメントはいくつか」の3点を基準としてみてください。人数の欄に数字だけでなく、ここまで紹介してきた根拠まで書ければ、社内の合意づくりも、調査会社とのやり取りも、ずっと進めやすくなります。
すべての調査に当てはまる正解の人数はありません。対象者が均質で目的が絞られたインタビューであれば、実証研究のレビューで9〜17人という範囲が報告されており、これが条件つきの参照値になります。対象が多様な場合や、セグメントを比較したい場合は、この範囲より多くの人数を見込んでおくほうが安全です。
意味がないわけではありません。ただし、実証データにもとづくレビューが示した飽和の範囲はインタビュー9〜17人で、5人はその下限を下回ります。5人で行うなら、「話が出そろった」と結論づけるのではなく、仮説の種を拾う探索と位置づけるのが誠実です。
人数と質は比例しません。対象者が調査に関係のある情報を多く持っているほど、少ない人数でも話は出そろいやすくなります。人数を増やす前に、対象者の絞り込みや対話の質を高めて、1人から調査に関係のある情報を多く引き出せないかを確かめるのが近道です。
実務の相場では「セグメント数×各3〜8人」という式がよく使われています。一方、実証研究のレビューが「均質な集団ひとつ」あたりに示した範囲は9〜17人で、両者には開きがあるのが実情です。予算に限りがあるなら、人数を薄く広げるより、比較の軸を絞ることから検討してみてください。
問題ありません。飽和の見極めは調査を進めながらの判定なので、途中で人数を見直すのはむしろ自然な流れです。最初の数人に聞いた結果を見てから、追加の人数を判断するという進め方も選択肢のひとつになります。
参考文献
Hennink, M., & Kaiser, B. N. (2022). Sample sizes for saturation in qualitative research: A systematic review of empirical tests. Social Science & Medicine, 292, 114523.
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