

この記事でわかること
デプスインタビューの6つの工程と、それぞれで決まること
実査・文字起こしにかかる時間を、人数から見積もる考え方
対象者の日程をいつ押さえるか、リクルートに何日を置くか
スケジュールが崩れる場面と、先に決めておくこと
デプスインタビューを任され、スケジュールの見積もりに苦労した経験がある方も多いのではないでしょうか。1人60〜90分のインタビューを10名に行うだけなら、数日で収まるように見えますが、多くの関係者を巻き込むデプスインタビューは、実査以外の隠れた工数が後から大量に出てきがちです。
さらに、デプスインタビューの工程について調べれば、企画から報告までの流れがすぐに出てきますが、それぞれの工程に何日を置けばよいのか、いつ動き出せば期日に間に合うのかは、担当者の経験によるものとなってしまっているとの声もよく聞きます。
先に結論をお伝えすると、デプスインタビューの日数を決めるのは多くが実査ではなく、その前後の工程です。1日に会えるのは多くても3〜4人で、記録のための文字起こしを自分で行えば、音声1時間分を文字にするのに5時間程度はかかります。この2点を知らないまま組んだ日程は、実査を終えたあたりから崩れはじめるのが通例です。
本記事では、デプスインタビューの6つの工程と、工程ごとの所要時間を自分の調査の条件から計算する道筋、そしてスケジュールが崩れやすい場面への備えを解説します。
日数の計算に入る前に、まずそろえておきたいのが工程の全体像です。工程の呼び方や区切り方は解説によって少しずつ違うものの、企画から報告までにやることの中身は、おおむね共通しています。
工程 | やること | ここで決まること |
|---|---|---|
1. 企画・設計 | 調査の目的と問いを定め、対象者の条件を決める | 誰に・何を聞くか |
2. 対象者のリクルート | 条件に合う人を探し、承諾を得て日程を調整する | 実査の日程 |
3. インタビューフローの作成 | 質問の流れと深掘りの方針を文書にまとめる | 当日の聞き方 |
4. 実査 | 1対1のインタビューを行い、直後に振り返り(デブリーフィング)をする | 聞き取れる発言の中身 |
5. 記録・文字起こし | 録音を文字にして発言録を整える | 発言録が仕上がる時期 |
6. 分析・レポート | 発言を整理・解釈し、報告書にまとめる | 調査の結論 |
実査の直後に行う振り返り(デブリーフィング)は、独立した工程とせず実査の行に含めました。当日のうちに行うことに意味のある作業で、詳しくは後半のスケジュールが崩れる場面の節で扱います。また、2のリクルートと3のインタビューフローの作成は、並行して進められる工程です。
6つの工程のうち、所要時間をはじめから掛け算で出せる工程は実査に限られます。1人60〜90分(じっくり聞く設計なら120〜150分)という単位に人数を掛ければ、合計が決まるためです。
一方、実査より前にあるリクルートは対象条件や対象者の都合に左右され、実査より後ろにある文字起こしと分析は、実査そのものより長くかかります。カレンダーを埋めていくのは実査ではなく、この前後の工程です。

この章では、単位あたりの時間がわかっている実査と文字起こしについて、人数から所要時間を積み上げる計算の道筋を示します。最後の分析・レポートは、問いの深さや報告の形式によって所要時間が大きく変わるため、この積み上げには含めていません。
数字はそのまま使うのではなく、自分の調査の人数と時間に置き換えて使ってください。
1人60〜90分という所要時間だけを見ると、朝から夕方まで詰めれば相当な人数をこなせそうに思えるかもしれません。実際には、対象者の入れ替えと会場やツールの準備、聞き手の休憩、聞いた内容を整理する時間が1件ごとに挟まります。調査会社各社が公開している解説でも、1日に実施できるのは多くても3〜4人というのが目安です。
たとえば、対象者を10名とする調査であれば、10名を1日3〜4人で割って、実査だけで3日前後という数え方になります。オンライン実施で移動がない場合でも、聞き手の集中は同じペースでは続かないため、この目安を大きく超える詰め込みはすすめられません。
実査を終えたあとに待っているのが、録音を発言録に起こす作業です。定性調査の文字起こしの実務の手引きでは、文字起こしと校正を行う場合、音声1時間あたり5〜10時間を見込むべきだとされています。
さらに同じ手引きによれば、集中を保つには1時間あたり5〜10分の休憩が必要で、1日に6時間を超える文字起こしは現実的ではありません。
ただし、ここまでの数値はすべて、自分の手で文字起こしをする前提に立っています。外注する場合や、生成AIツールなどを活用する場合は、この前提が当てはまりません。
ここまでの単位あたりの数値を、対象者10名・1人60〜90分という調査に当てはめると、次の計算例になります。
工程 | 計算 | 積み上がる時間(計算例) |
|---|---|---|
実査 | 10名 × 60〜90分 | 10〜15時間(1日3〜4人で会うため、日数にすると3日前後) |
文字起こし | 実査で録れた音声10〜15時間 × 5〜10倍 | 50〜150時間(1日6時間の上限で割ると9〜25営業日) |
実査と文字起こしの時間が出せても、まだ全体の日数にはなりません。残っているのは、6つの工程のなかでスケジュールをいちばん大きく動かす、対象者のリクルートです。この工程は、条件の厳しさと「集まるまで待つ」という性質の、2つの面から日数を動かします。
デプスインタビューの対象者は5〜15名、なかでも10名前後に設定される調査が多いようです。人数だけを見れば小さな募集ですが、条件を一つ重ねるたびに当てはまる人の割合は下がり、同じ10名を集めるために声をかけるべき人数が増えていきます。
たとえば「ふだん清涼飲料を買う方」という条件と、「共働きで、乳幼児を育てながら、特定ブランドの飲料を続けて買っている方」という条件とでは、後者のほうが探す範囲は格段に狭いはずです。条件が厳しいほど、声をかけはじめてから必要な人数がそろうまでの日数は読みにくくなります。
実査や文字起こしは、作業量から所要時間を計算できる工程でした。リクルートという言葉でひとまとめにされがちですが、中身は「条件に合いそうな人を探す」「アンケートなどで条件を確かめる」「参加の承諾を得る」「日程を合わせる」というやりとりの連続です。
このやりとりは、条件に合う人が必要な数だけ「集まるまで」続き、終わりを自分の側では決められません。相手の生活や仕事の都合次第で、こちらの段取りでは縮められない部分が残るためです。
だからこそ、リクルートを固定の日数で置いた計画は、その日数が過ぎた瞬間から全体が後ろへずれていきます。リクルートには余裕を持った期間を置き、期間内に集まりきらなかったときにどう動くかまで、先に決めておくことが大切です。
ここからは、工程ごとの計算から一歩進んで、「日程調整」についての研究が示すことを紹介します。調査プロジェクトを対象にした研究ではないため、数値をそのまま持ち込まず、大まかな傾向だけをくみ取る前提で読んでください。
リクルートを早く進めたい気持ちから、対象者の日程をできるだけ先まで押さえておきたくなりますが、先の日程ほど守られにくいという傾向を示した研究があります。
バージニア大学の研究チームは、眼科外来の予約46,655件を12か月分にわたって分析し、予約から受診までの日数が長いほど無断キャンセルが増えることを確かめました。
予約から受診まで0〜2週間なら、無断キャンセル率は研修医の外来で9.1%、専門医の外来で2.4%だったのに対し、6か月先の予約では、それぞれ38.3%と6.9%まで上がったと報告されています。2つの外来で水準は大きく違うものの、約束が先になるほどキャンセルが増えるという動き方は、どちらの外来でも同じでした。
これは眼科外来の予約を調べた研究であって、インタビュー調査の日程を対象にしたものではありません。数値をそのまま当てはめることはできないものの、約束から当日までが遠いほど、その約束は守られにくくなるという傾向は、実査の日程にも現れる可能性があります。
実査の日程は先の日程で調整するのではなく、条件の確認が済んだ人から近い日程で確定していくほうが読みやすいといえそうです。
最後に、日程が実際に崩れやすい3つの場面を順に見ていきます。3つとも、起きてから対処するのではなく、計画の段階で備えられる場面ですので、参考にしてください。
募集期間を終えても、条件に合う人が予定の人数に届かないことは、めずらしい事態ではありません。追加の募集をかければ、その分だけ実査の開始が後ろへずれます。
ここで効くのが、実査の予備日をあらかじめカレンダーに置いておくことです。リクルートに戻る可能性を前提に予備日を確保しておけば、追加募集がそのまま報告日の遅れにはつながりません。
見落とされやすいのが、実査の直後に行う振り返り(デブリーフィング)の時間です。聞き手の記憶がいちばん新しいのは実査を終えた直後で、その日のうちに「どの質問がうまく機能したか」「次の対象者への聞き方をどう変えるか」を整理すれば、翌日以降の実査の質を上げられます。
振り返りといっても長い会議は必要なく、録音を聞き直す前に、その日の気づきと次回への修正点を書き留めるだけで十分です。
スケジュールを企画の日から順に積んでいくと、日数の読みにくい工程で生じたずれがすべて、期日直前の分析の時間を削っていきます。崩れにくいのは、報告の期日を起点に、分析・文字起こし・実査・リクルートの順で逆算して日程を置く組み方です。
報告日からの逆算は、計画づくりの最初に行う作業にあたります。各工程の締め切りが先に見えていれば、リクルートが延びたときに、どこまでなら吸収できるかも判断しやすいはずです。

Spark Research は、アサヒビールや日本たばこ産業(JT) などの大手メーカーも利用する、AIインタビューサービスです。
ここまで見てきたとおり、デプスインタビューの日数を左右するのは、リクルート・実査・文字起こしという、人手と日程の調整に時間を取られる工程でした。工程ごとの計算で見通しは立てられても、この構造そのものは変わりません。
Spark Research なら、AIがインタビュアーを務めるため、対象者と1件ずつ日程を合わせて会いに行く必要がなくなります。スクリーニングを通過した対象者はいつでもインタビューを受けることができ、1日3〜4人という実査の目安にも、リクルーティングの手間にも、日程を縛られることがありません。インタビューの記録は自動で文字起こしが行われるため、記録の工程を待たずに分析へも進めます。
AIを活用したデプスインタビューのナレッジのご共有を含め、設計から分析までご一緒できますので、下記よりお気軽にお問い合わせください。
デプスインタビューの所要日数は、全体をひとかたまりで見積もるのではなく、6つの工程に分け、単位あたりの時間に自分の調査の人数を当てて積み上げることで、はじめて根拠のある数字になります。実査は1日3〜4人まで、文字起こしは音声1時間あたり5〜10時間、リクルートは幅を持たせる——この形であれば、はじめての調査でも日程の説明がつくはずです。
まずは報告の期日を確かめて、そこから逆算して各工程の締め切りを置くところから始めましょう。
調査の条件によって変わるため、全体で何日という決まった答えはありません。実査は1日3〜4人、文字起こしは音声1時間あたり5〜10時間という単位に自分の調査の人数を当てはめ、リクルートに幅を持たせて積み上げるのが、根拠のある出し方です。
5〜15名、なかでも10名前後に設定される調査が多いとされています。人数を増やすほど、実査だけでなく文字起こしと分析の時間も比例して増えるので、報告の期日との兼ね合いで決めるのが現実的です。
1人60〜90分の場合、多くても3〜4人にとどめるのが目安とされています。入れ替えや休憩、直後の振り返りの時間が挟まるため、無理に詰め込むと後半のインタビューの質が保てません。
自分で行う場合、音声1時間あたり5〜10時間かかり、1日に進められる作業は6時間までが現実的とされています。対象者が多い調査や報告までの期日が短い調査では、外注や自動文字起こしの利用も含めて、記録の工程の持ち方を先に決めておくのが安全です。
参考文献
McMullen, M. J., & Netland, P. A. (2015). Lead time for appointment and the no-show rate in an ophthalmology clinic. Clinical Ophthalmology, 9, 513–516.
Dresing, T., Pehl, T., & Schmieder, C. (2015). Manual (on) Transcription: Transcription Conventions, Software Guides and Practical Hints for Qualitative Researchers (3rd English ed.). Marburg.
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